Vol.74 No.4

The Japanese Journal of Antibiotics
Vol.74 No.4 December 2021

◆総説

Whole-genome sequencingによるMRSA血流感染症の治療薬選択の確立に向けた薬剤耐性遺伝子の解析ならびに薬剤感受性との比較
賀来敬仁
P.227-237, 2021

 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は,日本で最も検出されている薬剤耐性菌である。MRSAは皮膚や鼻腔内に常在菌として存在することがあり,免疫機能が低下した患者では肺炎や血流感染症などの重症感染症を引き起こす。MRSAは血流感染症の原因菌として最も検出される薬剤耐性菌であるが,感染制御や抗菌薬適性使用の推進によって検出率は低下傾向である。一方で,医療機関だけでなく市中でも伝播する市中関連MRSA(CA-MRSA)が出現し,10年以上前から世界的な問題となっている。北米を中心とした海外では,panton valentine leukocidin(PVL)を産生して壊死性肺炎などの重症な病態を引き起こすUSA-300がCA-MRSAとして問題になっているが,日本ではPVL陽性CA-MRSAの割合は少ない。また,CA-MRSAはβラクタム系以外の抗菌薬に感性を示すという従来の医療関連型MRSA(HA-MRSA)とは異なる特徴がある。MRSA血流感染症は死亡率の高い感染症であり,CA-MRSAによる血流感染症では感性を示す抗菌薬と抗MRSA薬の併用療法が治療の選択肢になる可能性がある。ただし,抗菌薬の適正使用という観点からは,抗MRSA薬に併用する薬剤が検出されたMRSAに感性を示すことを確認してから使用することが望ましい。現在では,質量分析(MALDI-TOF/MS)や全自動遺伝子検査機器を使用することで,従来法である培養検査よりも迅速にMRSAを同定することが可能となっているが,CA-MRSAが感性を示す薬剤に対する耐性の有無までは検出できないという問題点がある。近年では次世代シーケンサー(NGS)の登場によって,以前よりも迅速かつ簡便にwhole-genome sequencing(WGS)を実施することが可能になった。 WGSのデータを使用すれば,網羅的な薬剤耐性遺伝子の検出だけでなく遺伝子タイプの同定や病原遺伝子の同定など多くの情報を得られるため,CA-MRSA血流感染症では有用な微生物検査になると考えられる。一方で,現時点ではルーチンの微生物検査として実施するには多くの課題があり,WGSによるMRSA血流感染症の治療薬確立のために向けて,WGSによる薬剤耐性遺伝子の検出および薬剤感受性試験との比較などさまざまな検証を行うことが重要である。

◆原著

製造販売後における造血器悪性腫瘍以外の悪性腫瘍を有する発熱性好中球減少症に対するゾシンの有用性検討―特定使用成績調査の結果から―
小山貴彦・黄 錦鴻・坂倉和明
P.238-249, 2021

 ゾシンは,2015 年6月に発熱性好中球減少症を適応症として追加承認され,2016年2月から2019 年2月までの期間で本剤の使用実態下での造血器悪性腫瘍以外の悪性腫瘍を有する発熱性好中球減少症患者における安全性及び有効性の検討を目的とした特定使用成績調査を実施した。全国101施設において投薬開始時年齢15歳以上の患者は220例が登録され,安全性は201例,有効性は199例について検討した。
 副作用は201例中19例(19件)に認められ,副作用発現率は9.5%(19/201例)であった。2例以上発現した副作用は,下痢が4.0%(8例),血中クレアチニン増加が1.0%(2例)であった。重篤な副作用は肺障害が1例認められ,その他の副作用はいずれも非重篤であった。また,Grade 3の副作用は,高血圧,肺障害,トランスアミナーゼ上昇の各1例が認められ,その他の副作用はいずれもGrade 2以下であった。使用上の注意から予測できない副作用として高血圧が1例認められた。また,転帰はすべての副作用で回復又は軽快した。
 本調査の副作用発現状況において,本剤の発熱性好中球減少症の適応症追加承認前に実施した臨床試験の結果,及び既承認適応症を対象に実施した使用成績調査の結果と比較して,造血器悪性腫瘍以外の悪性腫瘍を有する発熱性好中球減少症患者に特異的に発現した副作用がなく,新たな安全性懸念は認められなかった。
 また,有効性評価症例で臨床効果が評価された185例における有効率は95.7%(177/185 例)であり,臨床試験及びこれまで実施した使用成績調査の結果と同様であった。
 本調査で得られた安全性及び有効性の結果から,造血器悪性腫瘍以外の悪性腫瘍を有する発熱性好中球減少症患者に対して,本剤は,発熱性好中球減少症診療ガイドラインにおいて推奨されているエンピリック治療薬として有用であることが確認された